2025/08/21 00:00

「イギリス」という言葉の向こうにあるもの

正式名称――「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。この名を耳にしたとき、多くの人はどこか厳かな響きを感じるのではないでしょうか。


日本では「イギリス」という呼称が一般的ですが、その語源は江戸時代にさかのぼります。ポルトガル語やオランダ語の発音をもとにした「イギリス」は、「英吉利(えいぎりす)」という当て字を経て定着した、日本独自の表現なのです。


一方で、世界では「United KingdomUK)」や「Britain」と呼ぶのが標準的です。「England(イングランド)」とだけ言えば、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの存在を見落とすことになります。


実際のイギリスは、四つの国がそれぞれの誇りと文化を携えて連合している、極めて多層的な国家なのです。


この複雑で繊細な構造は、ウイスキーにも表れています。スコッチウイスキーには「アイラ」「スペイサイド」「キャンベルタウン」など、地域ごとに異なる個性が息づきます。


潮風を含んだアイラ、芳醇で華やかなスペイサイド――それぞれが土地の物語を液体の中に閉じ込めているのです。



隣国アイルランドのウイスキーは、軽やかで柔らかな味わいが特徴。近年ではその滑らかさと伝統が再び注目を集めています。


さらに、アメリカの力強いバーボン、繊細なカナディアンウイスキー、そして日本が誇るジャパニーズウイスキー。それぞれの国の気候、制度、文化が独自の個性を生み出しています。


日本でも2021年、「日本洋酒酒造組合」が「ジャパニーズウイスキー表示基準」を制定しました。これは品質の向上と真摯なものづくりへの姿勢を示すもの。職人たちの情熱が、一滴一滴に宿っているのです。


ウイスキーのグラスを傾けるとき、その香りの奥に広がるのは、国の歴史と誇り、そして時間の記憶。


次にボトルを手に取るときは、その一滴に宿る土地の息吹を、静かに感じてみてはいかがでしょうか。

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