2025/10/17 12:14

ウイスキーの魅力のひとつ、「スモーキーフレーバー」。


あの香ばしくも複雑な煙香(えんこう)は、実はスモーキーな麦芽を使うことから生まれている。では、その麦芽はどのように作られるのだろうか。

ウイスキーの原料である大麦は、まず水に浸して発芽させ、その後、成長を止めるために乾燥させて麦芽(モルト)に加工する。この乾燥工程が、スモーキーフレーバーの決め手だ。


昔のスコットランドでは、湿った大麦を網の上に広げ、その下から火を焚いて乾燥させていた。現代では熱風乾燥機を使うが、かつての熱源は「薪」ではなく、「泥炭(ピート)」だった。


ピートとは、植物が何千年も堆積してできた有機質の泥。低温高湿の環境では植物の分解が進まず、不完全な状態で堆積される。

そのため、乾かすとよく燃え、燃やすと独特の煙を出す。この煙が麦芽にしみ込み、あのスモーキーな個性を与えるのだ。


まるで「カツオの藁焼き」のように、煙が香りを纏わせていく。


アイラ島では森林が少なく、島の四分の一が泥炭地で覆われていたため、ピートが暖房や調理にも使われてきた。掘って乾かすだけで燃料になる――この手軽さと豊富さが、ピート文化を根づかせたのだ。


ピートで麦芽を乾燥させるとき、実は乾燥初期ほど香りがよく付く。麦芽がまだ湿っているほど、煙を吸いやすいからだ。そのため、多くの蒸溜所では狙ったスモーキーさ(フェノール値)になるまでピートを焚き、あとは熱風で仕上げる。


一方で、アイラ島のオクトモアのように、最後まで焚き続ける超スモーキーな造りもある。


そしていま、日本でもこの伝統を受け継ぐ地がある。


北海道・厚岸町


霧に包まれるこの町は、豊かな湿原と潮風に恵まれた日本のアイラとも呼ばれる土地だ。町の周辺にはピート層が広がり、厚岸ウイスキーはその地産のピートを使って麦芽を乾燥させている。


結果、アイラよりも柔らかく、海と森の香りが調和した独自のスモーキーさを生み出している。



ピートの煙が紡ぐのは、単なる香りではなく、土地と時間の記憶


グラスの中で琥珀色の液体が揺れるたび、厚岸の湿原、海風、そして人の手が調和する一瞬が訪れる。