2025/10/20 12:31
スコットランド西岸、クライド湾に浮かぶアラン島。
かつて「密造酒界のブルゴーニュ」と呼ばれたこの島に、150年ぶりに合法蒸溜所の灯をともしたのが、アイル・オブ・アラン・ディスティラーズ社です。
1995年、創業者ハロルド・カリー氏は、シーバスリーガル社の元重役という確かな経歴を持ちながらも、効率や規模にとらわれない“誠実な蒸溜”を志してアラン蒸溜所(現ロックランザ蒸溜所)を設立しました。

当時、スコッチウイスキー業界は低迷期。新しい蒸溜所の開設など、誰もが無謀と口にした時代です。しかしカリー氏は、その静かな逆風の中で「本物のスピリット」を生み出すための挑戦を選びました。
開設から2年後の1997年、アラン蒸溜所のビジターセンターはエリザベス女王陛下によって正式に序幕されます。
これは、英国王室が同蒸溜所の精神と誠実な造りを高く評価した証であり、新時代のスコッチに対する希望の象徴ともなりました。
蒸溜所の熟成庫には、ウィリアム王子とヘンリー王子の名を冠した樽も眠っています。
そして2019年、アラン島南岸に新たな蒸溜所「ラグ蒸溜所」が誕生。
ピートを焚いた重厚なシングルモルトを生み出すこの新拠点の誕生により、アラン島北岸の蒸溜所は「ロックランザ蒸溜所」と改名し、アイル・オブ・アラン・ディスティラーズは、島全体をひとつのウイスキー文化圏へと発展させました。

さらに、ハロルド氏の息子ポール・カリー氏は2014年、イングランド北部の湖水地方に「レイクス蒸溜所」を設立。父の精神を受け継ぎながらも、異なる地で新たなクラフト・ウイスキーの可能性を切り拓いています。
当店がこの蒸溜所のボトルを扱うのは、その華やかな歴史や名声ゆえではありません。私たちが惹かれるのは、創業から一貫して流れる“誠実な造りの哲学”です。
どれほど時代が移ろっても、職人たちの手と心が大切にされること。それがロックランザ、そしてラグという二つの蒸溜所に共通する本質であり、アイル・オブ・アラン・ディスティラーズという名の誇りなのです。
グラスを満たすたびに感じる、穏やかで芯のある香り。その奥に息づくのは、アラン島の自然と人々の情熱、そして誠実の記憶なのです。
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