2025/12/23 20:00

ウイスキーの魅力は、実に多層的です。香りや味わいはもちろん、蒸留所の背景やストーリーも含めて、一本の価値が形づくられています。
だからこそ、私たちは時に「語られていること」だけで判断してしまいがちです。しかし、ウイスキー選びにおいて重要なのは、何が語られているか以上に、何が語られていないかかもしれません。
たとえば、「クラフト」「スモールバッチ」「伝統製法」といった言葉。それ自体が悪いわけではありません。
問題になるのは、それらの言葉に比して、肝心な情報がほとんど見えてこない場合です。
生産規模が分からない。蒸留所名が曖昧、あるいは前面に出てこない。熟成年数や樽についての説明が極端に少ない。
こうしたケースでは、嘘が書かれているとは限りません。ただ、本来なら語れるはずの情報が、意図的に省かれている可能性があります。
これは、スーパーで市販されている二八蕎麦で「割合が書かれていない」ことに違和感を覚える感覚とよく似ています。数値や具体性がないことで、受け手の想像に委ねられてしまう。その余白が大きすぎると、納得よりも不安が先に立ってしまいます。
信頼できるウイスキーは、すべてを説明しなくても要点を外さないという共通点があります。蒸留、熟成、原酒の扱い方。このいずれかが欠けている場合、どれほど美しい物語が語られていても一度立ち止まって考える価値があります。
情報が少ないこと自体が、必ずしも悪いわけではありません。意図的に語らない、という選択もあります。しかしその場合でも、沈黙が誠実であるかどうかは残された情報の質によって伝わります。
ウイスキーは、言葉で完成するものではありません。言葉はあくまで入口であり、最終的な判断は中身への理解と納得に委ねられます。
語られていない部分に目を向けること。それは疑うためではなく、より深く味わうための視点です。
