2026/01/11 20:00
酒税法改正によって、発泡酒や新ジャンルという区分が実質的に消えていく。
一見すると、それはメーカーの努力を無にする“梯子外し”のようにも映る。実際、各社は長年にわたり、税率の制約の中で味を磨き、商品を育ててきた。にもかかわらず、大手ビールメーカーがこの改正に強く反発している様子は、ほとんど見られない。
なぜなのか。
そこには、大手だからこそ描ける長期的な戦略と、すでに始まっている「次の勝負」の舞台がある。
■ 大手メーカーは「税率」で戦っていない
まず理解しておきたいのは、大手メーカーはもはや価格だけで勝負する立場にいないという点だ。
かつて、ビールは“日常の酒”だった。少しでも安い商品が歓迎され、価格差は売上に直結した。しかし現在、酒類市場は明らかに変化している。人口減少、若年層の酒離れ、健康志向の高まり──市場全体は縮小傾向にあり、単純な薄利多売モデルは成立しにくくなった。
こうした環境の中で、大手が重視するのは
「どれだけ安いか」ではなく、「なぜその銘柄を選ぶのか」
という価値の部分である。
プレミアムモルツ、キリンラガー、アサヒスーパードライ。これらは単なる酒類ではなく、長い時間をかけて築かれたブランドだ。価格が多少上がっても、選ばれ続ける理由を持っている。
酒税法改正は、こうしたブランド勝負に軸足を移した大手にとって、むしろ追い風になり得る。
■ 新ジャンルは「守る市場」ではなく「役目を終える市場」
もう一つ重要なのは、大手にとって新ジャンルが永遠に守るべき主戦場ではなかったという点だ。
新ジャンルは、本来「高いビール税率を回避するための暫定的な解」であり、制度の歪みが生んだカテゴリーでもあった。メーカー自身も、そのことをよく理解している。
だからこそ各社は、新ジャンルを育てながらも、同時に
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プレミアムビール
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クラフト路線
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ノンアルコール・低アルコール
といった次の柱を着実に育ててきた。
制度が変わるのなら、商品も変わる。
それは後退ではなく、計画された移行なのだ。
■ 政府と大手メーカーの「暗黙の合意」
さらに言えば、酒税法改正は突如として決まった話ではない。
段階的な税率変更は、何年も前から公表されており、メーカーは十分な準備期間を与えられてきた。
大手メーカーにとって重要なのは、
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制度が安定すること
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将来予測が可能になること
である。
頻繁にルールが変わる市場では、大規模な設備投資も、ブランド育成も難しい。税率一本化は短期的な痛みを伴う一方で、長期的には極めて分かりやすい市場環境をもたらす。
政府としても、特定企業を締め上げる意図はなく、むしろ「分かりにくすぎる制度を整理したい」という側面が強い。この点で、大手メーカーと政府の利害は一致している。
■ 本当の勝負は、これから始まる
酒税法改正は、大手メーカーから何かを奪うための制度ではない。
それは、「税制」という保護膜を外し、真正面からのブランド競争を促す装置だ。
価格ではなく、味わい。
量ではなく、物語。
日常消費ではなく、選ばれる理由。
大手メーカーが怒らない理由は明確だ。
彼らはすでに、その舞台に立つ準備を終えている。
次回は、視点を変えて、
「では、この改正は中小メーカーやPB商品にとって本当に不利なのか」
を詳しく見ていく。
制度の変化は、必ずしも敗者だけを生むわけではない。
むしろ、新しい立ち位置を見つけた者から、次の市場を手にしていく。
※本記事の内容は、酒税法や市場動向に関する公開情報をもとに、当店なりの理解でまとめたものです。
解釈や見方には幅があり、一つの考え方としてお読みいただければ幸いです。
